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沖縄県 那覇市

「の」、書きますか? お祝いのお饅頭は、母からの贈り物。 (1/2)

のまんじゅう ぎぼまんじゅう

聞き手 小林みちたか

写真 梅原渉

世界遺産・首里城跡のある首里公園から歩くこと約15分。ゆいレールの石嶺駅からなら5分ほど。

住宅街の一角に、ひっきりなしにお客さんが訪れる饅頭屋さんがある。

那覇(あるいは沖縄)三大饅頭の1つに数えられる『ぎぼまんじゅう』だ。

「のまんじゅう」は、沖縄県内のスーパーやお菓子屋さんで広く売られているが、登録商標を持っているのは『ぎぼまんじゅう』。その意味では、どれも類似品だ。『ぎぼまんじゅう』の「のまんじゅう」こそが、唯一無二の本家本元。

商品は、たった1つ。

手の平いっぱいの白い饅頭に、真っ赤な食紅で「の」の文字が大きく書かれた「のまんじゅう」だけ。

「4時に起きて、5時出勤。5時半からつくり始めます。ぜんぶ手作業で、かなり力を入れて、もみほぐしますから、手もこんな感じになるんです。職業病ですね」

そう笑顔で両手を見せてくれたのは、『ぎぼまんじゅう』の2代目・祖慶(そけい)米子さん。

祖慶米子さんの手は分厚く、指は太く、少し曲がり、「のまんじゅう」をおいしく作るための手になっている。毎日完売する「のまんじゅう」は、この手でつくられている。

1日平均約500〜600個。それでも9時に開店するとだいたい昼過ぎには売り切れてしまう。

そんな売り切れ必至の『ぎぼまんじゅう』の歴史は、100年近く前までさかのぼる。祖慶さんの祖母が戦前から饅頭を作っていた。

「当時はモノがない時代。物々交換のように、祖母はお饅頭を作って、野菜をもらうようなことをやっていました」

やがて、祖慶さんの母・名嘉真ハルさんが、戦後間もない1947年、首里儀保町(ぎぼちょう)の盛光寺の境内を間借りして『ぎぼまんじゅう』の営業を始めた。

境内を間借りしていた頃の『ぎぼまんじゅう』。盛光寺は、臨済宗(妙心寺派)の寺院で、琉球藩が廃止され、沖縄県が設置された1879年(明治12年)頃に建てられた。ゆいレールの儀保駅から徒歩2分ほど。

盛光寺は、首里十二支詣りに定められている4つの寺の1つ。未(ひつじ)と申(さる)の守り本堂が祀られていて、お寺にお参りに来た人がお供物として、饅頭を買っていった。

その饅頭が評判を呼び、いつの頃からか、お寺の参拝よりも、『ぎぼまんじゅう』を目当てに来る人が増えていった。

2004年、盛光寺の改修工事にともない現在の場所へと移転しても、変わらぬ人気を保っている。

盛光寺にある『ぎぼまんじゅう』の移転のお知らせ。移転して20年たつが、今もお寺に問い合わせが多いのだろう。お店が移転したら、お寺も移転したと勘違い人もたくさんいたとか。

「の」、書きますか?

元々饅頭に桜の花の形を描いたりといったことはよく行われていたよう。その中で、慶事の贈答品に添える飾りの「熨斗(のし)」から、「の」の字だけを書くようになり、「のまんじゅう」は生まれた。

つまり「の」は縁起物であり、お祝いの想いが込められている。

祖慶さんの祖母が沖縄で初めて「のまんじゅう」をつくり始めたのかは定かではないため、「発祥」とは断言できないが、少なくとも、今ある沖縄の饅頭屋としては最も古くから「のまんじゅう」をつくり続けていることだけは間違いない。

まだ何も書かれていない「のまんじゅう」。真っ白い生地は、小麦粉をイースト菌で発酵させ、砂糖や塩などを混ぜて生地をつくっていく。

『ぎぼまんじゅう』では、注文すると、必ず、こうたずねられる。

「『の』、書きますか?」

「のまんじゅう」は、元は何も書いていない白い饅頭なのだ。

もちろん、ほとんどのお客様が、「お願いします!」と答える。

すると、奥に下がって、ささっと一筆で「の」を書き入れる。4つ5つと数が多くなっても、饅頭を縦に並べて、一気に「の」を書き入れていく。

ものすごい速さで、「の」を書き入れていく。4、5個程度なら、一筆書きのように、1秒ほど書き終えてしまう。

饅頭のへりギリギリくらいまで、大きく書かれた「の」の文字は、祖慶さんの母の時代から変わっていない。

「小さく入れると、お饅頭も小さく見えるんです。だから、『の』の文字も、お饅頭も、どんどん大きくなってる気がしますね」と祖慶さんは笑う。

そのおおらかさは、なんとも沖縄らしい。

ちなみに、「の」なしの「のまんじゅう」は、たまに法事用などに買う人もいるとか。

「今はもう裏方。奥で作っているばかりです」という『ぎぼまんじゅう』の2代目・祖慶米子さん。お忙しい中、丁寧に、お話を聞かせてくださった。

また、饅頭に書かれる文字は、「の」だけではない。

「昔は、1文字ずつ『お誕生日おめでとう』とか、お願いされるままに書いていたんです。でも、依頼が多くなりすぎて、とてもとても対応できなくて」

現在は、受験の時期には「合」。バレンタインデーやホワイトデーの時期には「♡」、その他、「祝」「寿」「勝」と5種類あり、手書きではなく、スタンプという。