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静岡県 浜松市

明治創業の老舗で味わう、ニューヨーク生まれの濃厚ケーキ (2/2)

ニューヨークチーズケーキ 遠州菓子処 むらせや

聞き手 小林みちたか

写真 梅原渉

すべて手でつくる

ニューヨークチーズケーキは、その名の通り、ニューヨークで生まれたケーキ。ヨーロッパの伝統的なチーズケーキをアレンジしたといわれている。

特徴はなんといってもクリームチーズの濃厚さ。一般的なベイクドチーズケーキと比べて、多くのクリームチーズを使っている。その比率は50%とも60%とも。つまりケーキの半分以上が、クリームチーズなのだ。

だから、村瀬さんもクリームチーズには並々ならぬこだわりがあり、「オーストラリア産」と決めている。

ニュージーランド産はあまりに硬くて混ぜるのが大変だった。フランス産はおいしいが、求めている味にならなかった。

対して、オーストラリア産は、

「なんといっても味がおいしい。それと作業性も重要です。いろいろ試した結果、コストも含めて、バランスがいちばんでした」

レシピでは同じ「クリームチーズ」でも、どんなチーズを使うかによって、仕上がりは大きく変わってくる。だから、新商品の開発は、試行錯誤の賜物なのだ。

オーストラリア産は混ぜやすいといっても、湯煎して柔らかくしてもまだまだ硬い。そこに村瀬さんが「いちばんおいしい」という厳選したサワークリームを混ぜていくと、大きなボールいっぱいの量になり、さらに重くなる。

それを「量が多いので、機械ではできません。すべて手で混ぜています」というから驚きだ。

両手を交互に使いながら、かき混ぜていく作業は、想像以上の力仕事。

ただ、最初はグーっとゆっくり混ぜていたチーズが、瞬く間にグルングルンとどんどんスピーディーになっていくから職人技はすごい。

熟練のスタッフさん。その細い腕からは想像もできないほどパワフルかつスピーディな動きで、重そうなチーズもあっという間にかき混ぜてしまう。

次に、バターを混ぜたグラハムビスケットを1センチほどの厚みに伸ばした生地(これも手作業。ローラーでもできるが、手がいちばんやりやすいという)に、混ぜあげたクリームチーズを流していく。

そして固定窯で焼き上げる。

一般的なニューヨークチーズケーキの焼く時間は35分くらい。対して、『むらせや』では、もう10分ほど長く、45分近く丹念に焼き上げる。

「食べやすいサイズにしているので、あまり生感を出しすぎると、形が崩れやすくなってしまうんです。なので、少ししっかりさせるために、長めに焼いています」

だから、焼き具合もややきつね色。包装紙のオレンジ色がマッチしているのも、やはりストレートでわかりやすい。

見た目の形だけでなく、その味わいにも特徴がある。

「甘さはかなり控えめです。その分、濃厚さをしっかりと感じてもらえると思います」

甘さは強すぎると、クドくなってしまうという。濃厚ともいえるが、そもそも素材自体が濃厚なので、あえて甘さを押し出す必要はないと村瀬さんは考えている。

チーズの濃厚さを味わえる上、甘さが控えめな分、酸味もちゃんと感じられ、後味はさっぱり。

こだわりの素材と手間を惜しまない手作りから生まれたニューヨークチーズケーキは、瞬く間に『むらせや』の洋菓子人気No.1商品となった。

甘い物が大好きで、 若い頃は全国を食べ回って情報収集していたという村瀬さん。「今はスタッフたちがいろいろ情報を仕入れてくれるので、よほど頼もしいです」

若い感性に頼る

実は村瀬さんが最初につくっていたレシピは、今より甘さが強かったそうだ。

「若いスタッフからちょっと甘すぎるっていわれちゃいまして」と笑う。

スタッフから「変えてみてもいいですか」と提案され、任せてみると「私のつくったものよりも断然おいしかったんです」

そして改良を重ねながら、現在の味になっているという。

「やはり若い人の意見はどんどん聞いた方がいい。歳を取ってきている自分が基準になると、あまりいいものはできないと感じています」と村瀬さん。

経験上、若い人のつくった商品は、お年寄りも買う。でも逆は違う。

「世の中でヒットしている商品を見てもそう思います。やっぱり若い人の感性には、高齢者もついていく。自分自身がそうですから。新しいものには、すぐに飛びついちゃいますよ」

実際、ニューヨークチーズケーキの購買層は、幅広い。若い人はもちろん、70代の方も買っていく。

「味がよくなるにつれ、売り上げも伸びています。若い人の感性に任せたのは正解でした。実際、おいしくなっていますしね」

2017年には、新たな商品も生まれた。

天竜抹茶NYチーズケーキだ。

「天竜抹茶NYチーズケーキ」。パッケージのデザインは本家と異なるテイスト。竜のイラストが可愛い。

特別なおいしさより、普通のおいしい

静岡県といえば、日本茶の名産地として知られる。なかでも天竜は高級茶の産地として明治の頃から茶業が行われていた。香り高い上品な味わいが特徴という。

そんな天竜の抹茶がぎっしり入った天竜抹茶NYチーズケーキが2017年に完成した。

「抹茶はインパクトが強い方がいい」とクリームチーズと生地のグラハムビスケットの2層に天竜抹茶を混ぜている。

抹茶の味をしっかり感じられるとこちらも評判で、「今度スーパーの売り出しがあって、800本の注文が入っています」といまや本家に負けないくらいの売れ筋商品になっている。

ただ、抹茶の味を強く出したいといっても、グルメな人を驚かすようなトンがったおいしさではない。甘いものが好きな人なら、大半がおいしいと思ってもらえる食べやすい味だという。

「特別ではないかもしれませんが、むしろ、そこがいいと思っています」

奇をてらわず、あくまでも最大公約数的なおいしさを目指す。この肩肘の張りすぎない素直なケーキ作りが、『むらせや』の一番の魅力なのかもしれない。

パッケージも手で1個1個包んでいくのでかなりの労力。キャンディのように両端をくるっと巻いて包んでいた時期もあったが、一目で形状がわかる現在のスタイルに落ち着いた。

お菓子屋さんのない町は、さみしい

洋菓子の1番人気のニューヨークチーズケーキに対して、和菓子は「栗むしようかん」が看板商品だという。

使うのは、地元産の栗。仕事が終わってから村瀬さん自ら栗農家さんを訪ね回っている。

「材料がちょっと悪いだけで、商品の品質は途端に下がってしまいます。だから自分の目で見て、関わったものを仕入れるように心がけています」

もちろん海外の材料も使うので限界はあるが、可能な限りこだわっているという。

秋口になると、そんな村瀬さんが仕入れてきた栗をスタッフみんなで一心不乱にむき続けるそうだ。

「もうみんなうんざりするくらいですよ」と笑うが、「栗農家さんも喜んでくれていますね」とどこか誇らしそうでもある。

天竜のある遠州地方は昔から地元の絆を大切にした義理堅い地域だそうだ。だから地元の素材や食材をつかったお菓子作りをしていきたいという。

ニューヨークチーズケーキに続くヒット作を目指して、先日も自家製ジャムを使った新商品を試作したという。「あまり売れなかったけど、すごくおいしかったから、またチャレンジするつもりです」と村瀬さんのお菓子作りへの情熱は衰えない。

栗も天竜抹茶もその1つ。

ならば、栗をつかったニューヨークチーズケーキはと水を向けると、「できるかもしれないですが、栗はようかんの方でもう手一杯で」と笑う。

ただ、別の展開のアイデアはすでにある。

ベイクド感を抑えて、焼き具合をもう少し生っぽくし、サイズも大きくして、ギフトにも使いやすい商品はどうかとスタッフと考えているそうだ。

「でも商品開発は本当に大変。頓挫してばかりで、定着するものは少ないですよ」と嘆く。

お菓子屋さんは楽な商売ではない。最盛期には町に10軒はあったお菓子屋さんも、今では2、3軒になってしまった。

でも、「ここで辞めるわけにはいきません」ときっぱり。

もちろん明治からの歴史の大切さも背負っているだろうが、何よりも

「お菓子屋さんのない町って、どこかさみしいですよね」

区域の大部分を森林が占める天竜であれば、なおさらかもしれない。

だからと、村瀬さんは笑顔で続けた。

「やれるところまで。なんとか踏ん張ろうと思っていますよ」